まだこの世界には『推しにしゃべって欲しい名古屋弁』を内在化している人間が存在しない

 ヘタリアという国擬人化コンテンツが存在する

 ポーランドは「名古屋の高校生」をモデルにした話し方をしていると作者が述べたことからファンは苦心した。

 おそらく「まだこの世界には『推しにしゃべって欲しい名古屋弁』を内在化している人間が存在しない」からである。

 

 名古屋-名古屋弁の話をしよう

 名古屋とは愛知県の県庁所在地だ。名古屋市で話されているのが狭義の名古屋弁であり、その周辺(かつて尾張国とか尾張藩だった地域)で話されているのが広義の名古屋弁で、名古屋弁尾張弁であり、名古屋弁尾張弁でもある。一応その周辺地域も色々差異があって大きな町が昔からあった場所では○○弁というのが存在しているということになっていたり、名古屋は名古屋で上とか下とか存在したり、そもそも名古屋は県名と都市名が異なるのもあってややこしい。ともかく、本稿では乱暴に尾張弁=名古屋弁として語っていこうと思う。

 なお三河弁というのも愛知県内には存在する。世界で最も有名な都市の一つ豊田市が存在するのが、この三河地方である。三河は名古屋ではないし、尾張ではない。尾張民からすると、三河は岐阜とか三重とか静岡のような遠い存在である。あと三河弁はかわいい。名古屋人もそう思っている。だからこそ、三河は名古屋ではないのだ。

 

 名古屋弁は加齢臭だから

 私の話をしよう。私は広義の名古屋弁尾張弁)話者であり、狭義の非名古屋弁話者である。

 両親は名古屋弁尾張弁)地域で生まれ育ち、私も同様に名古屋弁地域で生まれ育った。この場合、広義的には私は名古屋弁話者といえる。

 父方の祖父母はそれぞれ東京と京都で生まれ育ち、父は両親から名古屋弁教育を受けていない。母方の祖母はインテリで家庭内であまり方言を使用していなかったらしい。母も母親から名古屋弁教育を受けていない。この場合、両親が非名古屋弁話者であり、従って私も非名古屋弁話者といえる。

 両親は子供の頃、正直名古屋弁が分からないまま適当に話を合わせていたことが多々あったという。私もそうだった。教科書もTVも教えてくれない、果てしなく身近で未知の言語が名古屋弁だった。

 だから中学生の頃、国語の教師に相談したことがあった。

名古屋弁をもっとちゃんと話せるように勉強したい」

 自分がなんと言ったのかよく覚えていないが、そんな風な言い回しだったように思う。鮮明なのはそこからの記憶だ。

 教師はとても困ったように――いや実際困ったのであろう――笑ってこう言った。

名古屋弁は加齢臭だから」

 

 できれば恋人には使って欲しくない名古屋弁

 名古屋の大学生に対して名古屋弁についてのアンケートを行ったところ「名古屋人の多くは、名古屋弁は下品で汚いと感じるので、恋人に使って欲しくない」という結果が出た。

 名古屋人は非名古屋出身者と比べ、名古屋弁に対して圧倒的にネガティブイメージを抱いており、恋人、特に彼女には使って欲しくないという。

 名古屋人として、名古屋弁を使っているのを聞くと親しみを感じることは当然ある。しかして、それを上回る「下品で汚い」イメージ。

 これがどこから来るのかは分からない。だが、確かにコテコテの誇張すら感じるような名古屋弁を使うのは「オッサン」だ。オッサン以外が使用した場合、その存在がいかに若くてかわいい美少女だったとしても突如「オッサン」になってしまう。だからオッサンでない存在は名古屋弁を使用しない。

 けれど名古屋人は、時を経てオッサンに近づくとだんだん名古屋弁が出てくる。勉強したわけでもないのに出てくる。あんなに忌避していた下品で汚い名古屋弁に汚染されてしまう。だから、加齢臭なのだ。

 

 まだ誰も知らないかっこいい・かわいい名古屋弁

 坂本龍馬は土佐弁を喋っている。CMなんかでも、何かの将来性を感じて「夜明けぜよ!」と突然土佐弁で叫んでいる。かっこいい。坂本龍馬がかっこいいので、自動的に土佐弁も格好良い。すごい。土佐弁話者はみんな坂本龍馬に感謝してあげて欲しい。

 坂本龍馬を日本人はみんな好きなように、織田信長も日本人はみんな好きだ。戦国時代を訪れて、織田信長と顔を合わせないタイムトラベラーはいないくらいである。でも、織田信長名古屋弁を話さない。豊臣秀吉名古屋弁を話さない。話している作品もあるかもしれないが、少なくとも現在名古屋弁を話す織田信長豊臣秀吉はメジャーとはいえないだろう。土佐弁を話さない坂本龍馬はあんなに新鮮なのに…。

 名古屋弁圏のスターが皆無なわけではない。メダルかじりおじさんが全国的に有名だが、鳥山明イチロー藤井聡太尾張地域出身である。名古屋市およびその周辺の人口は多い。上げきれないほどのスターが存在する。

 だがしかし、君たちはこれらのスターが名古屋弁を使っているのを見聞きしたことがあるだろうか?

 また、名古屋弁のキャラクターを君たちは上げることが出来るだろうか?

 鳥山明名古屋弁のキャラクターを創造したが、かっこいい・かわいいにカテゴライズされる造詣とはやや異なる。

 近年では「八十亀ちゃんかんさつにっき」が人気を博したが(本当に?名古屋人だけが喜んでない?大丈夫?名古屋人だけの喜びだけでこんなにアニメ化するなら逆に大丈夫か……?)、名古屋弁キャラクターは出オチ的存在である。八十亀ちゃんはとてもかわいいが、それはとてもかわいい八十亀ちゃんがオッサン語を話しているギャップ萌えだ。

 そう。「まだこの世界には『推しにしゃべって欲しい名古屋弁』を内在化している人間が存在しない」のだ。

 名古屋弁をよく知る名古屋人は名古屋弁を「下品で汚く」感じ、「下品で汚く」感じない人は名古屋弁をよく知らない。

 実は、例のメダルかじりおじさんは方言のイメージ向上のために名古屋弁をわざと話している。名古屋人は多くの地方人と同じく、公の場所で方言を使うのは失礼だと感じており、地元の友人や家族としか方言で話さない。だからメダルかじりおじさんの名古屋弁はわざとらしく、鼻につく。向上についてはメダルかじりなどのせいで全く役立ってはいないように感じるが……。

 

 お前が名古屋弁の柱になれ 名古屋人俺たちに栄光を導け

 もうここまできたら、必要なのはエポックメイキング的存在だ。名古屋弁を使用・多用する、かっこいいまたはかわいい推し。名古屋弁が鼻につかない、親しみを感じさせるそんな存在。名古屋人を置いてけぼりに、スターダムを駆け上れ。非名古屋人に名古屋弁を浸透させろ。名古屋弁をかっこよくてかわいい存在に押し上げろ。

 その時、名古屋人だけが名古屋弁を「下品で汚い」言葉と認識するマイノリティになる。そしてやがてそういうマイノリティも寿命で死に絶え、下品で汚い名古屋弁は絶滅するのだ。

 越……いや、ポーランド。お前は名古屋弁の柱になれ。そのためにもっとセリフを増やして貰ってくるんだ。ベスト・テンション&ベスト・コンディション、ユーアーザベスト、ユーアーザプリンスオブ名古屋弁